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2017-05-23

夜道

よく夜道を走る。それも真夜中。
信州に引っ越した当初は高速道路ばかり使っていた。
きっかけがあって下道を走り出したんだけれど、
これがたまらなくおもしろい。
初めての町を通り、名のある峠を越える。
距離感がだんだん体でわかるようになる。
テレビでどこか、遠い街の名前を聞いて景色が浮かぶ。

よく、しんどくないか?と聞かれるけど、
昔の人のように歩く訳でもない。
嵐のような雨風でも、雪が降っても、死ぬほど暑くても、
車の中は快適だ。音楽を聴いたり、好きなものを飲みながら、
座ったまま移動できる。
とんでもなく贅沢だ。・・と思って走る。

しかも、一里塚のようにコンビニがあるから、もう困りようがない。
いつ、何が起きてもなんとかなるような気がする。

深夜走っていると、深夜ならではの景色がたくさんある。
ある国道沿いのバラック小屋のラーメン店、午前1時、2時に
いつも車が何台か停まっている。
立て付けの悪そうな入口の引き戸の隙間から、湯気がワンワン出ている。
若けりゃ入るのだがガマンする。とにかくそそられる光景だ。
そんなにしょっちゅう通る訳ではないけれど、
横目で見て通り過ぎていた。

そのラーメン屋が無くなっていた。しばらく通っていなかったから
いつ無くなったのかはわからないが、好きな景色が一つ消えた。
消えたものの中に、もう一つ、なぜか心に残るものがある。

木曽路を走って、もうこのひと山越えたら中津川の街という
峠道のかたわらに、「こっそり堂」というのがあった。


ごらんのとおり、シュールでカワイイ看板である。
最初はもうすぐ中津川という目印にしていたが
そのうち、深夜、この小屋を見るのが楽しみになった。

ある時、入ってみようという気になって車をとめた。
中は蛍光灯で想像以上に明るい。
ただ、通路はクモの巣だらけで、明るさがかえってモノ寂しい。
数枚写真を撮って出た。

ただ、ここに車が止まっているのを見たことは無くて、
商売になっているのかな?とも思ったりした。
でも長年ここにあるんだから、きっとそれなりなんだろう、
もしかしたら、ビックリするくらいの利益があったりして、
とか思いながら後にした。

ところが、2、3ヶ月後、通りかかると「こっそり堂」はもう無かった。
ずっと、何年も見続けてきた景色だった。
あの時、写真に撮っておいて本当に良かったと思った。

今は小屋の基礎だったブロックだけが並んでいる。